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・・・破産した人間の土地を値切り倒して、それで時価よりも安く買えると彼は、鬼の首を取ったように喜んだ。 七年間に、彼は、全然の小作人でもない、又、全然の自作農でもない、その二つをつきまぜたような存在となった。僅か、六畝か七畝の田を買った時でさ・・・
黒島伝治
「浮動する地価」
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・・・八百屋などが来ると自分で台所へ出かけてやかましく値切り小切りをする。大根を歯で喰い欠いてみてこれはいけないと云って突返したりする。煮焚きの事でも細君にはやらせないで独りで台所で何かガチャつかせながらやっていた。 花を尋ねたり、墓を訪うた・・・
寺田寅彦
「イタリア人」