・・・町へ出て飲み屋へ行っても、昔の、宿場のときのままに、軒の低い、油障子を張った汚い家でお酒を頼むと、必ずそこの老主人が自らお燗をつけるのです。五十年間お客にお燗をつけてやったと自慢して居ました。酒がうまいもまずいも、すべてお燗のつけよう一つだ・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・ そのような決意をして、よその飲み屋をあちこち覗いて歩いても、結局、また若松屋という事になるのである。何せ、借りが利くので、つい若松屋のほうに、足が向く。 はじめは僕の案内でこの家へ来たれいの頭の禿げた林先生すなわち洋画家の橋田氏な・・・ 太宰治 「眉山」
・・・どこか、あなたのなじみの飲み屋でもこの辺にあったら、案内して下さい。」 失敬、見直した。しかし、金は本当に持っているんだろうな。割勘などは、愉快でない。念のため、試問しよう。「あるにはあるんですけど、そこは、ちょっと高いんですよ。案・・・ 太宰治 「渡り鳥」
出典:青空文庫