・・・飲んだくれの父の子に麒麟児が生い立ち、人格者のむすこにのらくらができあがるのも、あるいはこのへんの消息を物語るのかもしれない。 盆踊りなども、青年男女を浮世の風にあてるという意味で学校などというものより以上に人間の教育に必要な生きた教育・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・自分が農夫になって見た時にこの絵の具箱をぶら下げて歩いている自分がいかにも東京ののらくら者に見えるので心細かった。とうとう鉄道線路のそばの崖の上に腰かけて、一枚ざっとどうにか書き上げてしまった。 十月十八日、火曜。午後に子供を一人つ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・文芸家のひまとのらくら華族や、ずぼら金持のひまといっしょにされちゃ大変だ。だから芸術家が自分を閑人と考えるようじゃ、自分で自分の天職を抛つようなもので、御天道様にすまない事になります。芸術家はどこまでも閑人じゃないときめなくっちゃいけない。・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・始終怠けてのらくらしていました。その記憶をもって、真面目な今の生徒を見ると、どうしても大森君のように、彼らを攻撃する勇気が出て来ないのです。そう云った意味からして、つい大森さんに対してすまない乱暴を申したのであります。今日は大森君に詫まるた・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・シュレンカは、のらくら者の見本だよ。うまく書いてある。あとの貧農の人物を作者は説明していない。富農連が却ってスッカリ書かれてるでねえか。アグニェフがどうやら中農らしいが、ただ一人のシュレンカをぬきにして、小説ん中に本物の中農・貧農は書かれて・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・それを、帰って来た時に渡して呉れるのですが、あちらでは、約束をして置かないで人を訪問するのは、留守へ出掛けるものと定めて置いてよい位、誰でも、接客日でない日には、のらくら家で時間を潰してはいないものです。たとい在宅であっても、きっとなりふり・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・けれ共、あんまり自分達の世界と私達の世界を違えて考え、何の苦労も努力もしずにのらくらと暮して居る様に、馬鹿馬鹿しいほど云いたてると、仕舞いには私は腹をたてて仕舞う。その時も私は歩きながら大つまみに東京の生活振りを話してきかせた。皆は東京と云・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 裁縫師の女房から本が借りられなくなると、ゴーリキイは若いのらくら男女の寄り合い場となっている街のパン屋で、副業に春画を売ったり猥褻な詩を書いてやったり、貸本をしたりしている店から、一冊一哥の損料で豆本を借り出した。そこの本はどの本も下・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫