・・・いざ金がいるとなると、ポルジイはどんな危険な相談にでも乗る。お負にそれを洒々落々たる態度で遣って除ける。ある時ポルジイはプリュウンという果の干したのをぶら下げていた。それはボスニア産のプリュウン二千俵を買って、それを仲買に四分の一の代価で売・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・すると彼奴め、兵を乗せる車ではない、歩兵が車に乗るという法があるかとどなった。病気だ、ご覧の通りの病気で、脚気をわずらっている。鞍山站の先まで行けば隊がいるに相違ない。武士は相見互いということがある、どうか乗せてくれッて、たって頼んでも、言・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・似顔漫画が写真よりもいっそうよくその人に似るというのと同様に、対象の特徴の或る少数なる要素を抽出し誇張して、それをモンタージュ的に構成することによって、実物よりもいっそう実在的なものを創造するのである。近ごろ見た漫画の中に登場した一匹の犬な・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・航空者特に自由気球にでも乗る人はこの事実を忘れてはならない。 海陸風の原因が以上のとおりであるから、この風は昼間日照が強く、夜間空が晴れて地面からの輻射が妨げられない時に最もよく発達する。これに反して曇天では、輻射の関係で上記の原因が充・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・マレイ語から語頭のLを除くと日本語に似るものの多い事はすでに先覚者も注意した事である。その他にも頭の子音を除いてアソ型になるもの Kasa, Daisen, Tyausu, Nasu があることに注意したい。しかし私はこのようなわずかの材料・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・その形に似るをよしとす。法手本とするところは。すなわちその物なりと心得たる者も無きにもあらず。……」(司馬江漢、『春波楼筆記 科学界にも京人と奥州人がある。ロマンチシズムとクラシシズムの両極の間に世界が回転する。 五・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
・・・漫画が実物と似ない点において正に実物自身よりも実物に似るというパラドクシカルな言明はそのままに科学上の知識に適用する事が出来る。 ただ科学は主として物質界の現象に関係しているために、換言すれば人間の能知と切り離された所知者自身の間の交渉・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・「何しろあの連中のすることは雲にでも乗るようで、危なくてしようがない」「ふみ江ちゃんが琴やお花のお稽古で、すましているものですから、先でも買い被っていたに違いないんです。東京へ言ってやりさえすれば、金はいくらでも出るようなことも言っ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・わたくしは既に十七歳になっていたが、その頃の中学生は今日とはちがって、日帰りの遠足より外滅多に汽車に乗ることもないので、小田原へ来たのも無論この日が始めてであった。家を離れて一人病院の一室に夢を見るのもまた始めてである。東京の家に帰ったのは・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・かく口汚く罵るものの先生は何も新しい女権主義を根本から否定しているためではない。婦人参政権の問題なぞもむしろ当然の事としている位である。しかし人間は総じて男女の別なく、いかほど正しい当然な事でも、それをば正当なりと自分からは主張せずに出しゃ・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫