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・・・あまりの羽音に「きも」を奪われたのか、犬はその後には目もくれずにじめじめした土間を嗅ぎ廻る。 この急に持ち上った騒動に坐って居るものは立ち上り、ねころんで居た者は体を起した。一番年上の男の子は、いきなり炉から燃えさしの木の大きな根っこを・・・
宮本百合子
「農村」
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・・・おりおり赤松の梢を揺り動かして行く風が消えるように通りすぎたあとには、――また田畑の色が豊かに黄ばんで来たのを有頂天になって喜んでいるらしいおしゃべりな雀が羽音をそろえて屋根や軒から飛び去って行ったあとには、ただ心に沁み入るような静けさが残・・・
和辻哲郎
「ある思想家の手紙」