・・・ 僕はその時から前より少しいい子になり、少しはにかみ屋でなくなったようです。 それにしても僕の大好きなあのいい先生はどこに行かれたでしょう。もう二度とは遇えないと知りながら、僕は今でもあの先生がいたらなあと思います。秋になるといつで・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・気の弱いはにかみ屋ばかりだったら、こんな事にまでなりやしなかったんだ。」 われながら愚かしい意見だとは思ったが、言っているうちに、眼が熱くなって来た。「竹内トキさん。」 と局員が呼ぶ。「あい。」 と答えて、爺さんはベンチ・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・ けれ共はにかみ屋の小娘の様に口に出しては何事も云わなかった、そして母親と三人で一番近くにあった芝居の話や新らしい書籍の話やらを開けっ放した気持ちでして居た。 かなり名の聞えて居る小説家の裡で千世子はどんなにしてもただ訳もなく嫌いな・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
出典:青空文庫