・・・こう云いながら、お花は半身起き上がって、ぐずぐずしている。「早くおしよ。何をしているの。」「わたし脱いで寝た足袋を穿いているの。」「じれったいねえ。」お松は足踏をした。「もう穿けてよ。勘辨して頂戴、ね。」お花はしどけない風を・・・ 森鴎外 「心中」
・・・安次の半身は棺から俯伏に飛び出した。四つの足は跳ね合った。安次の死体は二人に蹴りつけられる度毎に、へし折れた両手を振って身を踊らせた。と、間もなく、二人は爆ぜた栗のように飛び上った。血が二人の鼻から流れて来た。「エーイくそッ。」「何・・・ 横光利一 「南北」
・・・梶は、敗戦の将たちの灯火を受けた胸の流れが、漣のような忙しい白さで着席していく姿と、自分の横の芝生にいま寝そべって、半身を捻じ曲げたまま灯の中をさし覗いている栖方を見比べ、大厦の崩れんとするとき、人皆この一木に頼るばかりであろうかと、あたり・・・ 横光利一 「微笑」
・・・『朝倉敏景十七箇条』は、「入道一箇半身にて不思議に国をとりしより以来、昼夜目をつながず工夫致し、ある時は諸方の名人をあつめ、そのかたるを耳にはさみ、今かくの如くに候」といっているごとく、彼の体験より出たものであるが、その中で最も目につくのは・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫