・・・終りに宗祖その人の人格について見ても、かの日蓮上人が意気冲天、他宗を罵倒し、北条氏を目して、小島の主らが云々と壮語せしに比べて、吉水一門の奇禍に連り北国の隅に流されながら、もし我配所に赴かずんば何によりてか辺鄙の群類を化せんといって、法を見・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・すると、突然、今まで居るとも思えなかった一人の友達が、多勢の中から突立ち、どうしたことか、まるでまる真赤な洋服を着て、非常に露骨な強い言葉でその先生の不公平を罵倒し始めた。始めのうちは、条理が立って居たのが次第に怪しくなって、仕舞いには、何・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・彼独特の発声法で、中間派作家とその作品を罵倒しながら、最後には、ひいきの尾崎一雄を、その「『アミ』がいくらか古めかしく」純粋になってしまって現代生活の流れに浮いた「アクタモクタの全部は尾崎のアミに引っかからなくなっている」という不平はとなえ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・すると、花村の家に母親がどなりこんで、かえって花村の親父から罵倒されたという物語があります。どうせ私生子を生むような女は、と悪態をつかれることなどを聞いていた花村が、主人公の私生子であるということについて大人からうけうりの偏見を持ったわけで・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・「傲慢な罵倒」を「小ブル的自己満足」をもってしている。又、中條という「少し太りすぎて眼鏡などかけた雌蛙」「プロレタリア文学における」「見習い女中にすぎない」者が「藤森さんやきみやぼくの小説を材料に、千切り大根の切り方の練習でもするつもりらし・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・一郎は或る瞬間には二郎をおっちょこちょいとして罵倒する。そのような一郎の姿、二郎の在りよう、それを客観的に観察し、解明するHさんは、猫に先生である自分を観察させた作家漱石の自己への客観的態度の又の表現であろう。これだけ手のこんだ構成のなかで・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・ 読者に奇異の感を与えるそのような冒頭の文句ではじまる、長文の上申書の終りは、かつての転向上申書の書式を思わせ、共産党への罵倒と「いかなる罰も天命であって人智のなすべからざるところと。そして後、新たなる魂をもって邦家のために生き抜こうと・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・それを見当違に罵倒したりなんかせずに置いてくれれば好いと思うのである。そして少数の人がどこかで読んで、自分と同じような感じをしてくれるものがあったら、為合せだと、心のずっと奥の方で思っているのである。 停留場までの道を半分程歩いて来たと・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・そう思うと彼には秋三の罵倒が眼に見えた。が、また自分に安次を引き受ける気持のある以上、敵の罵倒に反抗し得るだけの力は、自然出て来るであろうと思われた。九 秋三の母はひと笊豆をむき終えた。そこへ姉のお霜は黙って一人這入って来た・・・ 横光利一 「南北」
・・・羅山は、『妙貞問答』における神儒仏の批判が、単なる罵倒であって、批判になっていない、という点を指摘する。しかし羅山自身の天主に関する批判も同様である。「聖人を侮るの罪のみは忍ぶべからず」という態度であるから、ほとんど議論にはならないのである・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫