・・・ 譚はちょっと口をすぼめ、ひょっとこに近い笑い顔をした。「ところが君の出迎いなんだよ。Bさんは生憎五六日前からマラリア熱に罹っている。」「じゃBさんに頼まれたんだね?」「頼まれないでも来るつもりだった。」 僕は彼の昔から・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・おかめひょっとこのように滑稽もの扱いにするのは不届き千万さ。」 さて、笛吹――は、これも町で買った楊弓仕立の竹に、雀が針がねを伝って、嘴の鈴を、チン、カラカラカラカラカラ、チン、カラカラと飛ぶ玩弄品を、膝について、鼻の下の伸びた顔でいる・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・ と仰向けに目をぐっと瞑り、口をひょっとこにゆがませると、所作の棒を杖にして、コトコトと床を鳴らし、めくら反りに胸を反らした。「按摩かみしも三百もん――ひけ過ぎだよ。あいあい。」 あっと呆気に取られていると、「鉄棒の音に目を・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・素面ではさすがにぐあいが悪いと見えてみんな道化た仮面をかぶって行くことになっていたので、その時期が来ると市中の荒物屋やおもちゃ屋にはおかめ、ひょっとこ、桃太郎、さる、きつねといったようないろいろの仮面を売っていた。泥色をした浅草紙を型にたた・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫