・・・ いろいろ下らん事で心配をかけてすまないとか、ほんとに不孝な子を持った因果とあきらめてくれ、などと涙声で云われると、却って栄蔵の方が、云い訳けをしたい様な気持になった。 十円といくらかの銭ほかない貧乏親父をこんなにたよりにして、・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
一 東京新聞七月三十一日号に、火野葦平の「文芸放談」第二回がのっている。「同人雑誌の活溌化」がトピックである。 このごろの出版不況で、文芸雑誌のいくつかが廃刊した。そして、雑誌を廃刊し、また経・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・今は不況時代で就職は難しいと一般に考えられていますが、しかし、誠意をもって、たましいを打ちこんで自分の職務に尽そうとしている人は少ない。 ですから、職を求める人がそこらにほうきではきよせる程あっても、要するに、誠意を認められている人はや・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・インテリゲンツィアの勤労者階級化の傾向はこれに応じて必然に生じたのであり、更に一九二九年の恐慌以後今日に至る一般の不況は、益々深刻にこの社会的現象を展開させている。十年前に労働予備軍に加った人々の生活が低下しつつある傍ら、新しい青年層の無産・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・日本に於ける基督教布教史は当時乱世の有様に深く鋭く人生の疑問も抱いた敏感な上流の若い貴公子、女性などの無垢な傾倒と、この浦上の村人のような幼児の魂を持った人々の献身とによって、如何に美しく、如何に悲しくされているかしれないと思う。数多く来た・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・そういうギャップが現実にあるから舟橋聖一・田村泰次郎がこの不況にトップをきって売れているのです。 ここにAさんという人があります。Aさんという人は工場に働いています。それで文学好きです。文学を好きだという人は必ずより人間的な要求をもって・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・佐兵衛は「お前のような不孝者を、親父様に知らせずに留めて置く事は出来ぬ」と云った。亀蔵はすごすご深野屋の店を立ち去ったが、それを見たものが、「あれは紀州の亀蔵と云う男で、なんでも江戸で悪い事をして、逃げて来たのだろう」と評判した。 後に・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫