・・・、過去四十年の間一に男子の奴隷として規定、訓練され、しかもそれに満足――すくなくともそれに抗弁する理由を知らずにいるごとく、我々青年もまた同じ理由によって、すべて国家についての問題においては、まったく父兄の手に一任しているのである。これ我々・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・いやしくも父兄が信頼して、子弟の教育を委ねる学校の分として、婦、小児や、茱萸ぐらいの事で、臨時休業は沙汰の限りだ。 私一人の間抜で済まん。 第一そような迷信は、任として、私等が破って棄ててやらなけりゃならんのだろう。そうかッてな、も・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ 謙三郎もまた我国徴兵の令に因りて、予備兵の籍にありしかば、一週日以前既に一度聯隊に入営せしが、その月その日の翌日は、旅団戦地に発するとて、親戚父兄の心を察し、一日の出営を許されたるにぞ、渠は父母無き孤児の、他に繋累とてはあらざれども、・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・が、子女の父兄は教師も学校も許す以上はこれを制裁する術がなく、呆然として学校の為すままに任して、これが即ち文明であると思っていた。 自然女学校は高砂社をも副業とした。教師が媒酌人となるは勿論、教師自から生徒を娶る事すら不思議がられず、理・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・交潤社の客で一代に通っていた中島某はA中の父兄会の役員だったのだ。寺田は素行不良の理由で免職になったことをまるで前科者になってしまったように考え、もはや社会に容れられぬ人間になった気持で、就職口を探しに行こうとはせず、頭から蒲団をかぶって毎・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・その出品は重に習字、図画、女子は仕立物等で、生徒の父兄姉妹は朝からぞろぞろと押かける。取りどりの評判。製作物を出した生徒は気が気でない、皆なそわそわして展覧室を出たり入ったりしている。自分もこの展覧会に出品するつもりで画紙一枚に大きく馬の頭・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・ そのくせ生徒にも父兄にも村長にもきわめて評判のよいのは、どこか言うに言われぬ優しいところがあるので、口数の少ない代わりには嘘を言うことのできない性分、それは目でわかる、いつも笑みを含んでいるので。 嫁を世話をしよう一人いいのがある・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・それから、私は何か不敬なことを言ったらしい。叔母は、そんなことを言うものでない、お隠れになったと言え、と私をたしなめた。どこへお隠れになったのだろう、と私は知っていながら、わざとそう尋ねて叔母を笑わせたのを思い出す。」 これは明治天皇崩・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・本社発行の『秘中の秘』十月号に現代学生気質ともいうべき学生々活の内容を面白い読物にして、世の遊学させている父兄達に、なるほどと思わせるようなものを載せたいと思うのです。で、代表的な学校、をえらび、毎月連載したいと思います。ついては、先ず来月・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・長男が中学へ入学したときに父兄として呼び出されて行った。その時に控え室となっていた教場の机の上にナイフでたんねんに刻んだいろいろのらく書きを見ていたら、その中に稚拙な西洋婦人の立ち姿の周囲にリリアン・ギッシュ、メリー・ピクフォードなどという・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
出典:青空文庫