・・・いざりよって丸い手鏡をとって自分のかおをのぞいた。ふっくらした丸みをもった頬と特別な美くしさと輝きをもった眼、まっかな唇に通った鼻、顔全体にみなぎって居る何とも云えないうすら寒い気持――そう云うものを女は女自身に感じて、「私は若い――そ・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・娘時代のイエニーは、ふっくらとした二つの肩を大きく出した夜会のなりで、小さい口もとに無邪気な微笑をふくみ、可愛いけれども無内容にこちらを見ている。今、カールの肩に手をおいて立っているイエニーの全身からは厳粛な気分が流れている。楽しいけれども・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・そのときのかの子さんの印象は、自身の白い滑らかさ、ふっくらした凹凸、色彩のとりどりを自身で味いたのしみながら辿っているとでも云う心理に映った。主婦として女中さんの待遇について話すようなときも、同じその感覚が、自身の主婦ぶりに向けられているら・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・マイヨール独特の親しみぶかいふっくらした裸婦が足にささった小さなとげをとろうとしているところである。その彫像が久しぶりで訪ねた鷺の宮の家のたんすの上に飾られていた。ああここに来ていると思ってながめながら、座布団の上に坐ったとき、わたしは、そ・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・私はその後に立って鏡の中の雛勇はんの何とも云われないほどきれいなふっくらした胸のたたりとまっかな襦袢の袖の胸を被って居るのを見て居た。お妙ちゃんは時々手をやめては、器用に顔の形を変えて、「これがマア」と云われる様なおどけた様子をして見せた。・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・色が白くふっくらとした落ちつきをもっていて、才智が大きな眼もとに溢れていた。またこの大伯母はいつも黙って人の話を聞いているだけで、何か一言いうと、それで忽ち親戚間のごたごたが解決した。ときどき実家のあるこの村へ来ても、どこの家へも行かずに私・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫