・・・つらきめに、あいたることか。ふつふつ、つかれた。四そくかなわず。いわれず。きこゑず。ただ、ただ、見ゆるばかりで。ふふ。 同断中略。○九月二十五日。このごろわ、あきのなかばなるに、うたもよめず、これでわ、こまつたも・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・七巻八巻織りかけたる布帛はふつふつと切れて風なきに鉄片と共に舞い上る。紅の糸、緑の糸、黄の糸、紫の糸はほつれ、千切れ、解け、もつれて土蜘蛛の張る網の如くにシャロットの女の顔に、手に、袖に、長き髪毛にまつわる。「シャロットの女を殺すものはラン・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・小鳥に踏み落されて阪道にこぼれたる団栗のふつふつと蹄に砕かれ杖にころがされなどするいと心うくや思いけん端なく草鞋の間にはさまりて踏みつくる足をいためたるも面白し。道は之の字巴の字に曲りたる電信の柱ばかりはついついと真直に上り行けばあの柱まで・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
出典:青空文庫