・・・にあけながら、「頂戴物が減るのを気づかって来やしたのし。と笑って居た。 女中は祖母にその事を見た様に話して居る。 祖母に、たのまれた用事があるので、じき近処の牛乳屋へ行く。此村に只一軒の店で昔から住んで居るので実力の・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・で、いつまで立っても減ることはないと云った。勝手道具もそうである。土間に七釐が二つ置いてある。春の来た時に別当が、「壊れているのは旦那ので、満足なのは己のだ」と云った。その内に壊れたのがまるで使えなくなったので、春は別当と同じ七釐で物を烹る・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・だから日本から来たヘル・ドクトルの連中に初めて逢って口をきくと、みんな変な顔をするんだ」と言っていたことがある。この純一君と話しているうちに、漱石の話がたびたび出たが、純一君は漱石を癇癪持ちの気ちがいじみた男としてしか記憶していなかった。い・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫