・・・というものは、そういうものの無意識な萌芽のようなものであったかと思われる。しかしまだ芸術映画の理論などの問題にならない時代における最初の試みであったから、今から見るとそういう見地からは幼稚なものであったかもしれない。 自分のここで映画的・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・ 風雅の精神の萌芽のようなものは記紀の歌にも本文の中にも至るところに発露しているように思われる。ただその時代にはそれがまだ寂滅の思想にしみない積極的な姿で現われている。しかるに万葉から古今を経るに従って、この精神には外来の宗教哲学の消極・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・しかしもしも万一これら質的研究の十中の一から生まれうべき健全なるものの萌芽が以上に仮想したような学風のあらしに吹きちぎられてしまうような事があり、あるいは少しの培養を与えさえすればものになるべきものを水をやらないために枯死させてしまうような・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・などの考えの萌芽らしいものも見られる。しかし全体としての説明は不幸にして今の言葉には容易に書き直されないものである。 終わりには「病気」に関する一節があって、そこには風土病と気候の関係が論ぜられ、また伝染病の種子としての黴菌のごときもの・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・その天稟の能力なるものは、あたかも土の中に埋れる種の如く、早晩萌芽を出すの性質は天然自然に備えたるものなり。されども能くその萌芽を出して立派に生長すると否らざるとは、単に手入れの行届くと行届かざるとに依るなり。即ち培養の厚薄良否に依るという・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
○十年ほど前に僕は日本画崇拝者で西洋画排斥者であった。その頃為山君と邦画洋画優劣論をやったが僕はなかなか負けたつもりではなかった。最後に為山君が日本画の丸い波は海の波でないという事を説明し、次に日本画の横顔と西洋画の横顔とを並べ画いてそ・・・ 正岡子規 「画」
・・・支持し、ファシズムに反対する作家たちの一人一人が、その創作の現実で、新しいより社会的な創作方法にまで歩み出しているとは云えないけれども、日本の現代文学が世界の文学として生存してゆくための意味深い本質的萌芽は、すでに日本のうちに流れるこれらの・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・二つの作品には自然発生的な萌芽として、新しい日本の人民生活の文学の端緒と、現代文学が私小説から脱却してゆく可能の方向及びこれからの日本文学が実質的に世界文学の領野に参加し、そこでになってゆくべき現実の性格などについて、示唆をふくんでいる。・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第七巻)」
・・・その時に当って、各作家が自身のものとして示した生きかたの萌芽が、すでに、この大正初頭の、歴史的素材へ向う各作家の態度のうちに含まれていたということは、歴史的文学のこととして今日私たちに実に教うるものが多い点だと思う。「地獄変」「戯作三昧・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・は一九三〇年の春、益々豊富に大衆の中に芽生えて来る文学的萌芽の肥料として、初歩的な文学雑誌『成長』を刊行しはじめた。一九三一年には、文学サークルのために『文学突撃隊』という文学新聞を出しはじめた。プロレタリア文学における新幹部の養成は、技師・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫