・・・もし然らずして教師みずから放蕩無頼を事とすることあらば、塾風たちまち破壊し、世間の軽侮をとること必せり。その責大にして、その罰重しというべし。私塾の得、一なり。一、私塾にて俗吏を用いず。金穀の会計より掃除・取次にいたるまで、生徒、読書の・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・この他なお細かに吟味せば、蓄妾淫奔・遊冶放蕩、口にいい紙に記すに忍びざるの事情あらん。この一家の醜体を現に子供に示して、明らかにこれに傚えと口に唱えざるも、その実は無辜の小児を勧めて醜体に導くものなり。これを譬えば、毒物を以て直にこれを口に・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・また東京にて花柳に戯れ遊冶にふけり、放蕩無頼の極に達する者は、古来東京に生れたる者に少なくして、必ず田舎漢に多し。しかも田舎にて昔なれば藩士の律儀なる者か、今なれば豪家の秘蔵息子にして、生来浮世の空気に触るること少なき者に限るが如し。これら・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・其性行正しく妻に接して優しければ高運なれども、或は然らず世間に珍らしからぬ獣行男子にして、内君を無視し遊冶放蕩の末、遂には公然妾を飼うて内に引入れ、一家妻妾群居の支那流を演ずるが如き狂乱の振舞もあらば之を如何せん。従前の世情に従えば唯黙して・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ その趣は、老成人が少年に向い、直接にその遊冶放蕩を責め、かえって少年のために己が昔年の品行を摘発枚挙せられ、白頭汗を流して赤面するものに異ならず。直接の譴責は各自個々の間にてもなおかつ効を見ること少なし。いわんや天下億万の後進生に向っ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・いかなる場合にも放蕩無情、家を知らざるの軽薄児が、能く私権のために節を守りて義を全うしたるの例は、我輩の未だ聞かざる所なり。 窃かに世情を視るに、近来は政治の議論漸く喧しくして、社会の公権即ち政権の受授につき、これを守らんとする者もまた・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・丹羽文雄氏が、放蕩はしてもよそへ子供は拵えない、何しろ子供にはかなわないからね、というようなことを、その常套性と旧い態度とに対して揶揄的高笑いをうける気づかいなしに、二十歳前後の若い女の座談会で云っていられる状態なのである。『文芸』十月・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・三田村たちが非合法活動の方便に名をかりて、放蕩していたことはすべての文献にのこっている。今日封建性に反対するという名目で私たちの間に性的な放恣がないであろうか。インフレーションはたれの経済生活をもうちこわしている。インフレーションに名をかり・・・ 宮本百合子 「共産党とモラル」
・・・私の知っている或る家庭では、主人が放蕩で家にかえらぬ淋しい夜、そのひとの妻と年頃の娘とがうちつれ立ってレビュー見物に出かけ、レビューガールを家へつれてかえって賑やかに楽しんでいる事実がある。奥様とお嬢様はどちらへ? 松竹のレビューへお出にな・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・従って、彼女等は、尊敬すべき良人を守って、超然と立つ勇気も無ければ、放蕩無頼な良人をして涙を垂れさせる、尊き憤りもございません。従順と、屈従との差を跨き違える人間は、自分の何事を主張する権威も持たない薄弱さを、「私は女だから」と云う厭うべき・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫