・・・われ、眼を定めてその人を見れば、面はさながら崑崙奴の如く黒けれど、眉目さまで卑しからず、身には法服の裾長きを着て、首のめぐりには黄金の飾りを垂れたり。われ、遂にその面を見知らざりしかば、否と答えけるに、その人、忽ち嘲笑うが如き声にて、「われ・・・ 芥川竜之介 「るしへる」
・・・それは、自己防衛する術を知らぬ、動物の報復について考えを要せぬからであります。それ故に、僅かに、神の与えた聡明と歯牙に頼るより他は、何等の武器をも有しない、すべての動物に対して、人間の横暴は極るのであります。 斯の如きことを恥じざるに至・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・言葉を換えていえば、田舎の人にも都会の人にも感興を起こさしむるような物語、小さな物語、しかも哀れの深い物語、あるいは抱腹するような物語が二つ三つそこらの軒先に隠れていそうに思われるからであろう。さらにその特点をいえば、大都会の生活の名残と田・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・結構とか性格とか云う点からあれを見たならば抱腹するのが多いだろう。しかし幕に変化がある。出来事が走馬灯のごとく人を驚かして続々出る。ここだけを面白がって、そのほかを忘れておればやはり幾分の興味がある。一九は御覧の通りの作者である。一九を読ん・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・この笑いを作者は、惨酷に甚兵衛を扱いつづけていた継母、異母弟への報復の哄笑として描き出している。義民、英雄というものに向けられて来た、盲目な崇拝の皮を剥いで示そうとしているのである。「極楽」の退屈さに苦しんで、地獄を語り合うときばかりは・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・舟橋聖一氏が昨今提唱する文学におけるリベラリズムの根源は、そういう反動的憎悪とかつて進歩の旗のにないてであったものへの報復的アナーキーの危険の上にたっているのを見て、私はつよくそのことを考えるのである。 ロシア文学史は、どの時代をとって・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・しかも現実は容赦ないから、その生活的思意の無方向のまま矢張り我々は歴史の因子として厳然と存在しつづけ、そのような怠慢で自分が存在したことの報復は極めて複雑な社会全般の事情の推移そのものから蒙って生きて行かなければならない関係におかれているの・・・ 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・ペトロパヴロフスクの要塞監獄監禁が、その行為に対する報復であった。この時ゴーリキイが死刑を免がれたのは、ゴーリキイ処刑反対の大デモンストレーションがロシア国内のみか、ヨーロッパ諸外国で行われたからであった。 翌年、解放運動の資金を得るた・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫