・・・ 子供らは、ほかの方面へいって探しはじめました。そして、見つからないので、みんなはがっかりとしてしまって、いつしか、どこへかいってしまいました。 あとに、まりは、独り残されていました。しかし、また、子供たちがやってくるにちがいない。・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
・・・さっそく妙な男は、盗賊とまちがえられて警察へ連れられていきましたが、まったくの盗賊でないことがわかって、放免されました。それからというものは、妙な男は夜も外へ出なくなって、昼も夜もへやに閉じこもっていました。そして、その電信柱も、いろいろ世・・・ 小川未明 「電信柱と妙な男」
・・・ 亀やんは毎朝北田辺から手ぶらで出てきて河堀口の米屋に預けてある空の荷車を受けとると、それを引っぱって近くの青物市場へ行き、仕入れた青物つまり野菜類をその車に載せて、石ヶ辻や生国魂方面へかけて行商します。私はその米屋の二階に三畳を間借り・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ この三四ヵ月程の間に、彼は三四の友人から、五円程宛金を借り散らして、それが返せなかったので、すべてそういう友人の方面からは小田という人間は封じられて了って、最後にKひとりが残された彼の友人であった。で「小田は十銭持つと、渋谷へばかし行・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・携わっている方面も異い、気質も異っていたが、彼らは昔から親しく往来し互いの生活に干渉し合っていた。ことに大槻は作家を志望していて、茫洋とした研究に乗り出した行一になにか共通した刺激を感じるのだった。「どうだい、で、研究所の方は?」「・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・もっともこの二人は、それぞれ東京で職を持って相応に身を立てていますから、年に二度三度会いますが、私とは方面が違うので、あまり親しく往来はしないのです。けれども、会えばいつも以前のままの学友気質で、無遠慮な口をきき合うのです。この日も鷹見は、・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・言うまでもなく非常に止められたが遂には、この場合無理もない、強て止めるのは却って気の毒と、三百円の慰労金で放免してくれた。 実際自分は放免してくれると否とに関らず、自分には最早何を為る力も無くなって了ったのである。人々は死だ妻よりも生き・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
一人の男と一人の女とが夫婦になるということは、人間という、文化があり、精神があり、その上に霊を持った生きものの一つの習わしであるから、それは二つの方面から見ねばならぬのではあるまいか。 すなわち一つは宇宙の生命の法則の・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・おそらく、いつまで生きて居っても、人間と生活の美しい方面は見ることが出来ず、いつも悪い醜い方面ばかりを見ておこったり、不平を云ったり、にや/\笑ったりして、陰鬱な面をしているだろう。かげでぶつ/\云っていず、自分からさきに出て、喋くりもし、・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・中川は四十九曲りといわれるほど蜿蜒屈曲して流れる川で、西袋は丁度西の方、即ち江戸の方面へ屈曲し込んで、それからまた東の方へ転じながら南へ行くところで、西へ入って袋の如くになっているから西袋という称も生じたのであろう。水は湾わんわんと曲り込ん・・・ 幸田露伴 「蘆声」
出典:青空文庫