・・・下の話もほんとうかどうか、それはわたしには保証出来ません。しかしわたしの髪を刈りに出かける「ふ」の字軒の主人の話によれば、靴屋は半之丞の前に靴を並べ、「では棟梁、元値に買っておくんなさい。これが誰にでも穿ける靴ならば、わたしもこんなことを言・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・我ら十七名の会員はこの問答の真なりしことを上天の神に誓って保証せんとす。(なおまた我らの信頼するホップ夫人に対する報酬はかつて夫人が女優たりし時の日当一六 僕はこういう記事を読んだ後、だんだんこの国にいることも憂鬱になってき・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・彼等は間牒の嫌疑のため、臨時この旅団に加わっていた、第×聯隊の歩哨の一人に、今し方捉えられて来たのだった。 この棟の低い支那家の中には、勿論今日も坎の火っ気が、快い温みを漂わせていた。が、物悲しい戦争の空気は、敷瓦に触れる拍車の音にも、・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・笠井はくどくどとそこに行き着く注意を繰返して、しまいに金が要るなら川森の保証で少し位は融通すると付加えるのを忘れなかった。しかし仁右衛門は小屋の所在が知れると跡は聞いていなかった。餓えと寒さがひしひしと答え出してがたがた身をふるわしながら、・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・かかる保証を有ちながら、私が所有地解放を断行しなかったのは、私としてはなはだ怠慢であったので、諸君に対しことさら面目ない次第です。 だいたい以上の理由のもとに、私はこの土地の全体を諸君全体に無償で譲り渡します。ただし正確にいうと、私の徴・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 諸君、私は謹んで、これなる令嬢の淑徳と貞操を保証いたします。……令嬢は未だかつて一度も私ごときものに、ただ姿さへ御見せなすった、いや、むしろ見られた事さえお有んなさらない。 東京でも、上野でも、途中でも、日本国において、私がこの令・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・な、お前がこれから深田よりさらに財産のある所へ養子にいったところで、それだけでお前の仕合せを保証することはできないだろう。よせよせ、婿にゆくなんどいうばかな考えはよせ。はま公、今一本持ってこ」 おはまは笑いながら、徳利を持って出た帰りし・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・されば云うて、自分も兵隊はんの抜けがら――世間に借金の申し訳でないことさえ保証がつくなら、今、直ぐにでも、首くくって死んでしまいたい。」「君は、元から、厭世家であったが、なかなか直らないと見える。然し、君、戦争は厭世の極致だよ。世の中が・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・つの職業であって封建の家禄世襲制度の恩沢を蒙むって此の武士という職業が維持せられたればこそ日本の大道楽なるかの如く一部の人たちに尊奉せらるゝ武士道が大成したので、若し武士が家禄を得る道なく生活の安全を保証されなかったなら武士道如きは既くに亡・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・丁度森が歩哨を出して、それを引っ込めるのを忘れたように見える。そこここに、低い、片羽のような、病気らしい灌木が伸びようとして伸びずにいる。 二人の女は黙って並んで歩いている。まるきり言語の通ぜぬ外国人同士のようである。いつも女房の方が一・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
出典:青空文庫