・・・只だ人生の保証として、又事実として自分の有して居る感覚に何程の力があるか、此れを考えた時に吾々は斯く思わずには居られない。苟も吾々の肉体に於て、有ゆる外界の刺戟に堪え得るは僅に廿歳より卅歳位迄の極めて短かい年月ではないか、そして年と共に肉体・・・ 小川未明 「絶望より生ずる文芸」
・・・私は人間の安心というものが科学によってのみ保証されるとは思っていない。人間性というものが、科学との間に矛盾を来たすとも考えていない。唯物史観は真理であるけれども、人間の精神的の飛躍がなかったら創造されぬ如く、感情の真も知識の真も畢竟するとこ・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・ついては身元保証金として、金六百円を納められたい。――活版刷りの美麗な辞令だった。 そして、待機していると、世間は広いものだ。一生妻子を養うことが出来れば、六百円の保証金も安いものだと胸算用してか、大阪、京都、神戸をはじめ、東は水戸から・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それについて保証人がいるのだが、自分には両親もきょうだいも身寄りもない、ついては保証人になって貰えないだろうかと言うことだった。私はすぐ承知したが、それから二月たたぬ内に横堀は店の金を持ち逃げした。孤独の寂しさを慰めるために新世界とはつい鼻・・・ 織田作之助 「世相」
「歩哨に立って大陸の夜空を仰いでいるとゆくりなくも四ッ橋のプラネタリュウムを想いだした……」と戦地の友人から便りがあったので、周章てて四ッ橋畔の電気科学館へ行き六階の劇場ではじめてプラネタリュウムを見た。 感激した。陶酔・・・ 織田作之助 「星の劇場」
一 行一が大学へ残るべきか、それとも就職すべきか迷っていたとき、彼に研究を続けてゆく願いと、生活の保証と、その二つが不充分ながら叶えられる位置を与えてくれたのは、彼の師事していた教授であった。その教授は自分・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・「全世界の人悉くこの願を有ていないでも宜しい、僕独りこの願を追います、僕がこの願を追うたが為めにその為めに強盗罪を犯すに至ても僕は悔いない、殺人、放火、何でも関いません、もし鬼ありて僕に保証するに、爾の妻を与えよ我これを姦せん爾の子を与・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・そしてこれを保証することは国家と男性との義務でなくてはならぬ。 最後にこの天理の自然、生命の法則という視点から、最初に立ちかえって、夫婦生活というものには無理が含まれていることも、英知をもって認めておかなくてはならぬ。この無理をどう扱う・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・この身に親しいインティメイトな感じが倫理学への愛と同情と研究の恒心とを保証するものなのである。 二 倫理学の入門 倫理学の祖といわれるソクラテス以来最近のシェーラーやハルトマンらの現象学派の倫理学にいたるまで、人間の・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・のみならず、夜になると、歩哨が、たびたび狼に襲われた。四肢が没してもまだ足りない程、深い雪の中を、狼は素早く馳せて来た。 狼は山で食うべきものが得られなかった。そこで、すきに乗じて、村落を襲い、鶏や仔犬や、豚をさらって行くのであった。彼・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
出典:青空文庫