・・・と声をかけると声のやさしい女は細目にあけて黛を一寸のぞかせて、「ようこそ、どうぞ御入りあそばして」と云ってすぐ几帳を引いてしまった。「よく来て下さったこと、今に兄君も常盤の君も紫の君も見えるでしょうからね」とうれしそうに・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・そのような文学の細目が、しだいに日本の文学史を変革してゆくであろう。〔一九五〇年三月〕 宮本百合子 「文学と生活」
・・・しかし、この十数年間の民衆の実生活は全般にわたって、その細目に及ぶまで余り切りつまり、自由を失い、発言の力がなかったから、ましてやラジオなどについては、日本のラジオは、こういうものとしてうけ入れていたように思う。もしかしたら、「日本のラジオ・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・○扉を細めにあけて、そこに繩をはった有蓋貨車に人がのって走って行った。○正一が千葉から戻ってえの、○○がつれて鳥取へ行きよった刀剣をもって。かえりに梨買うて来ちょります。○砂糖を何匁配給になった○油をどの位○・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
・・・金銭出納細目帳のようにまで書かれている。 徳川の政府はたびたび贅沢禁止の命令を発したが、命令は実行されなかった。それは当然であったと思う。社会的に最も身分の低いものとされ、斬り捨て御免の立場に置かれ、しかも経済の中枢では権力者の咽喉元を・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・さて真っ先に玄関に進んでみると、正面の板戸が細目にあけてある。数馬がその戸に手をかけようとすると、島徳右衛門が押し隔てて、詞せわしくささやいた。「お待ちなさりませ。殿は今日の総大将じゃ。それがしがお先をいたします」 徳右衛門は戸をが・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 若者は荷物の下から、眼を細めて太陽を眺めると、「ちょっと暑うなったな、まだじゃろう。」 二人は黙ってしまった。牛の鳴き声がした。「知れたらどうしよう。」と娘はいうとちょっと泣きそうな顔をした。 種蓮華を叩く音だけが、幽・・・ 横光利一 「蠅」
・・・しッたらどうしようと、おそるおそる徳蔵おじの手をしっかり握りながら、テカテカする梯子段を登り、長いお廊下を通って、漸く奥様のお寝間へ行着ましたが、どこからともなく、ホンノリと来る香は薫り床しく、わざと細めてある行燈の火影幽かに、室は薄暗がり・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫