・・・あの会合は本尊が私設外務大臣で、双方が探り合いのダンマリのようなもんだったから、結局が百日鬘と青隈の公卿悪の目を剥く睨合いの見得で幕となったので、見物人はイイ気持に看惚れただけでよほどな看功者でなければドッチが上手か下手か解らなかった。あア・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・艶ッぽい節廻しの身に沁み入るようなのに聞惚れて、為永の中本に出て来そうな仇な中年増を想像しては能く噂をしていたが、或る時尋ねると、「時にアノ常磐津の本尊をとうとう突留めたところが、アンマリ見当外れでビックリした。仇な年増どころか皺だらけのイ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 女房は自分の名誉を保存しようとは思っておらぬらしい。たったさっきまで、その名誉のために一命を賭したのでありながら、今はその名誉を有している生活というものが、そこに住う事も、そこで呼吸をする事も出来ぬ、雰囲気のない空間になったように、ど・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・「それだから、美しい実のなるのも、木には、深い意味があるので、自分の種類を保存することになるのです。」「人間は、どうなんですか。」「どう、おまえは考えるの。お父さんや、お母さんは、だんだん年をとって、働くことができなくなります。・・・ 小川未明 「赤い実」
・・・ これから見ても、和本は、出版の部数は少なかったけれど、これを求めた人は愛玩し、また、古本となって、露店へ出ても、買った人は大事にして、本箱に樟脳をいれたりして、永久に保存したでありましょう。この場合、他の骨董品と同じく、数が少なければ・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・志賀山流の伝統保存のためであることは言うまでもない。――こんな話を、私は三ちゃんに語ったのである。 織田作之助 「起ち上る大阪」
彼は人気者になら誰とでも会いたがった。しかし、人気者は誰も彼に会おうとしなかった。いうまでもなく彼は一介の無名の市井人だった。 野坂参三なら既にして人気者であり、民主主義の本尊だから、誰とでも会うだろう。彼はわざわざ上・・・ 織田作之助 「民主主義」
・・・「聖人になりたい、君子になりたい、慈悲の本尊になりたい、基督や釈迦や孔子のような人になりたい、真実にそうなりたい。しかしもし僕のこの不思議なる願が叶わないで以て、そうなるならば、僕は一向聖人にも神の子にもなりたくありません。「山林の・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・「道善御房は師匠にておはしまししかども、法華経の故に地頭を恐れ給ひて、心中には不便とおぼしつらめども、外はかたきのやうににくみ給ひぬ――本尊問答抄」 清澄山を追われた日蓮は、まず報恩の初めと、父母を法華経に帰せしめて、父を妙・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 母親の抱擁、頬ずり、キッス、頭髪の愛撫、まれには軽ろい打擲さえも、母性愛を現実化する表現として、いつまでも保存さるべきものである。おしっこの世話、おしめの始末、夜泣きの世話、すべて直接に子どもの肉体的、生理的な方面に関係のあるケヤーは・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
出典:青空文庫