・・・がまた両方とも本当でもない。これに似寄りの定義は、あっても役に立たぬことはない。が、役に立つと同時に害をなす事も明かなんだから、開化の定義と云うものも、なるべくはそう云う不都合を含んでいないように致したいのが私の希望であります。が、そうする・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・つまりその本当の装幀は、一切読者自身の自由意志に任かすのである。それによつて読者は、正に彼自身の理解した「彼自身の著者」を、いつも「彼自身の趣味」によつて自由に完全に装幀することができるであらう。かくてこそ書物の著者は、正に読者の生活に「活・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・あの時がわたくしにとっては、どんなに幸福な時でございましたでしょう。本当にお互に物馴れない、窮屈らしい御交際をいたしました事ね。あの時邪魔の無い所で、久しく御一しょにいますうちに、あなたの人にすぐれていらっしゃること、珍らしい才子でいらっし・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・己はお前達の美に縛せられて、お前達を弄んだお蔭で、お前達の魂を仮面を隔てて感じるように思った代には、本当の人生の世界が己には霧の中に隠れてしまった。お前達が自分で真の泉の辺の真の花を摘んでいながら、己の体を取り巻いて、己の血を吸ったに違いな・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・昨日は二百十日だい。本当なら兄さんたちと一緒にずうっと北の方へ行ってるんだ。」「何して行かなかった。」「兄さんが呼びに来なかったからさ。」「何て云う、汝の兄※とこへね、きれいなはこやなぎの木を五本持って行ってあげるよ。いいだろう・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・恋愛がそれに価いしないと云うのではなく、正反対に、本当の恋愛は人間一生の間に一遍めぐり会えるか会えないかのものであり、その外観では移ろい易く見える経過に深い自然の意志のようなものが感じられ、又よき恋愛をすることは容易な業ではないと感じている・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・それ等について、ホントに知りたい読者は、どうか、今に出るそのプロレタリア芸術講座をよむなり、『ナップ』を読むなりして欲しい。 ところで、ここではなにを話そうか。――そう! 一つ、ソヴェトの文学研究会のことを書いて見よう。 ソヴェトの・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ ところで、文学的月評は、書く顔ぶれをかえることだけで、ホントに生気ある文化的価値をふき込まれるだろうか? 思うに、それは姑息である。 行きつまったブルジョア文壇の生産力を、新しいプロレタリア文学の作品が圧倒しつつある。従って文・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・「では誰のアミが現代のアクタモクタをホントにしゃくいあげることができるだろう? 田村泰次郎のアミがそれだなどと言う人があったら、失礼ながら私はひっくりかえって笑わなければならぬ云々」「戦争を自分のなま身でもって生き、通過して来た上で、作家と・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・『婦人戦旗』は、われわれにホントにプロレタリアの女として、世の中をどう見て、どう暮してゆくかを教える、たった一つのホンモノの雑誌です。〔一九三一年八月〕 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
出典:青空文庫