・・・ 註 本文に引例した諸家の作品を、直接に見ようと思われる読者のために、それ等が何に収められているかを、記して置く。「興津彌五右衛門の遺書」・「阿部一族」・「佐橋甚五郎」、「高瀬舟」「寒山拾得」・「じいさんばあさん」、「椙原品・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・一人の或る女――それは娘時代には昔風の母親に生活させられた、然し時代が真の女性の本分を要求したのに刺戟されて、初めて自分の過去の生活を反省し、社会主義から婦人運動の中にまで入り、やや反抗的な態度の生活に入る。そしてその女はそれを人間としての・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
過去への瞥見 今日の日本文学のありようは、極めて複雑である。そのいりくんだ縦横のいきさつを明瞭に理解するために、私たちは一応過去にさかのぼって、この三四年来日本の文学が経て来た道のあらましを顧みること・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 学生のこういう意志表示を学生の本分にもとるという意見がある。しかし学生の本分とは何であろうか。学問がやってゆけないほどの月謝ねあげに反対しないで、どこに「教育をうけるべき」学生の本分の主張があるだろう。「放送の自由をまもり健全な発達を・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・勤めている若い女が官僚風な空気の中でくしゃくしゃする気分はかかれていますが、ルポルタージュというものは、後記にかかれているような気分と本文の気分の間に漂う自分を自分で把握した上で具体的に書かれるものでしょう。〔一九四〇年五月〕・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・ 戦時中、日本の文学者たちが示したおどろくべき文学精神の喪失は、日本の野蛮な権力による文化圧殺の結果として見られるものであるけれども、兇悪な権力が出版企業と結合して、薄弱な日本文化・文学を底から掘りかえして来た過程は、惨憺たるものがある・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ そんな断り書をつける位なら、漠然として、現実の影響力のない本文かというと、どうして。筆者がこの数万語で煽ろうとしている民族の対立は本能である、というにくむべき侵略主義の煽動、ソヴェト同盟についての非科学的なデマゴギー、「第二次世界戦争・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・を最後に附記されている『婦人公論』編集部宛の長瀬澄江さんのことばまでとおしてよんだとき、その手紙と本文の文章とのあいだに、切なさとはこういうものと思わせずにいないすすり泣きと、それをこらえて笑っている若い女の人々の肩のふるえを感じる。三回の・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・今日学生の本分が、教室での勉強にあるというならば、政府は、校門から数十万の学徒出征をさせたあの事実を、それらの青年たちに向って何と説明するつもりだろう。一人の人間が、政府の都合で勇敢な一人前の男にされたり、半人前の学生ときめられたりすること・・・ 宮本百合子 「メーデーぎらい」
・・・この注意を受けたのは、まだ本文を校正していた時であったから、どこかへギョオテの名を入れて入れられないこともなかった。しかし私は考えた。諺に大師は弘法に奪われたとか云うようなわけで、ファウストと云えばギョオテのファウストとなっているから、こと・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫