・・・神山は彼の方を見ずに、金格子で囲った本立てへ、大きな簿記帳を戻していた。「じゃ今向うからかかって来ましたぜ。お美津さんが奥へそう云いに行った筈です。」「何てかかって来たの?」「先生はただ今御出かけになったって云ってたようですが、・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ 天井は低く畳は黒く、窓は西に一間の中窓がある計り東のは真実の呼吸ぬかしという丈けで、室のうち何処となく陰鬱で不潔で、とても人の住むべき処でない。 簿記函と書た長方形の箱が鼠入らずの代をしている、其上に二合入の醤油徳利と石油の鑵とが・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・平時にも、もとより会計簿記の事あり。その事務、千緒万端、いずれも皆、戦隊外の庶務にして、その大切なるは戦務の大切なるに異ならず、庶務と戦務と相互に助けて、はじめて海陸軍の全面を維持するは、あまねく人の知るところならん。 然らばすなわち全・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ ゆえに本塾の教育は、まず文学を主として、日本の文字文章を奨励し、字を知るためには漢書をも用い、学問の本体はすなわち英学にして、英字、英語、英文を教え、物理学の普通より、数学、地理、歴史、簿記法、商法律、経済学等に終り、なお英書の難文を・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・明治の初年、余が始めて西洋簿記法の書を読み、その後これを翻訳して『帳合之法』二冊を出版せしころより、世間にもようやく帳合の大切なるを知り、近来は稀に俗間にもこの帳合法を用うるものあり。然るに西洋流の帳面をそのままに用い、横文の数字を横に記し・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
出典:青空文庫