・・・文学としてのギリシャ神話は宇宙の壮大と美麗と威力とへの関心を当時の都市の形成を反映している神とその人間ぽい生活感情で形象していて面白い。イギリスの十九世紀初頭の詩人画家であったウィリアム・ブレークが、独特な水色や紅の彩色で森厳に描いた人格化・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ この主張によって、ローレンスは、こんにちのわたしたちからみると、いくらか少年ぽいむきさで、性に関して医学的な言葉をつかわなかった過去の文学上の習慣、とくにイギリスの習慣に反抗を示した。ローレンスの反抗は、フランスの自然主義の初期、その・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 二階の塵っぽい室へ入ると。「じゃ、一寸これに返事を書いてやって下さい」と、半紙に書いたヤスの手紙を見せた。面会させてくれと来たが、会わされないから返事だけ書けというのだ。警察備品らしい筆で、「国の父から電報が参りまして・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ルノアールは水ぽい絵描きですが、セザンヌに対しては厚い心を持っていた様です。この伝記とチャンポンに小説を読みましょう。実に小説が読みたい。志賀直哉全集は大きい活字ですから今に読み始めるにはいいけれど、心持とはあまり遠くて。今はカロッサの「医・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・何だか役人ぽい。そして、大旦那っぽい。小説をかくものには刑務所もためになるとか、自分が「機嫌を直した」とか。ああいう程度の言葉が、褒めたような印象を誤って一般に与えるところに、謂わば今日の文学の時代的な弱さがかくされているのである。 中・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・そしてその村からの帰りに道路の水溜りのいびつに歪んでいる上を、ぽいッと跳び越した瞬間の、その村の明るい春泥の色を、私は祖父の大きな肩の傾きと一緒に今も覚えている。祖父の死んだこの家は、私の母や伯母の生れた家で、母の妹が養子をとっていたもので・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫