・・・ マリアは、自分を見知りもしない公爵Hに夢のような熱中を捧げると同時に、その愛人のGを観察して嫉妬もしている。どうして、彼女の周囲の腐敗した上流社交人たちは結婚に対して、それを愚弄した考えを抱くのかを、小さい鋭い頭で疑っている。「夫と妻・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・ 若い敏感な読者たちは、マリイがアンリイを見知り、心をひかれ、だが破局に終るまでのマリイの心の推移から、どのようにねうちの高いものを学んで来るであろうか。アンリイがデロアの息子であると知って、心から愛するエエメ教姉の話をしたことを愧じる・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・きょうお目見えをした者の中に大御所のお見知りになっている人はなかったかと問わせたのである。通事の取り次いだ返答は、いっこうに存ぜぬということであった。しかもそういった呂祐吉の顔は、いかにも思いがけぬ事を問われたらしく、どうも物を包み隠してい・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫