・・・真黒いミノルカとレグホンが六七羽のんきにブラついて居る。中を一寸のぞいたけれ共人影が見えないので誰かにきいて見ようと思って又牛舎の方へ行きかけると、裏の方から、主婦が出て来た。「まあいらっしゃいまし。よっぽどお寒うございますねえ、お・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・そしてタイプで打ったミノ判二枚の「昭和二十三年の勤労者の家計について」という見出しで和田長官の名によって出されたメモのようなものを見せた。その内容をよくみれば、記者が勤労者家計白書だといったのは、一つのハッタリであることがわかった。和田長官・・・ 宮本百合子 「ほうき一本」
・・・野田は天草の家老野田美濃の倅で、切米取りに召し出された。四月二十六日に源覚寺で切腹した。介錯は恵良半衛門がした。津崎のことは別に書く。小林は二人扶持十石の切米取りである。切腹のとき、高野勘右衛門が介錯した。林は南郷下田村の百姓であったのを、・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・飛騨国では高山に二日、美濃国では金山に一日いて、木曽路を太田に出た。尾張国では、犬山に一日、名古屋に四日いて、東海道を宮に出て、佐屋を経て伊勢国に入り、桑名、四日市、津を廻り、松坂に三日いた。 一行が二日以上泊るのは、稀に一日の草臥・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫