私が見境いなくものを読みたがり出した頃は、山田美妙の作品など顧られない時代になって居た。一つも読んだことはないが、感情の表現を大体音声や言葉づかいの上に誇張して示したらしい。雲中語の評者たちから、散々ひやかされて居るが、同・・・ 宮本百合子 「無題(六)」
・・・この綱は、逆に捻じればぽろりと切れた。この微妙な考案力はどこから来たのかいまだに私は不思議である。 横光利一 「鵜飼」
・・・ そして私は製作する。できたものをたとえばストリンドベルヒの作に比べてみる。何という鈍さと貧弱さだろう。私は差恥と絶望とで首を垂れる。 微妙な線、こまやかな濃淡、魔力ある抑揚、秘めやかな諧調、そういう技巧においてもまた、私の生まれつ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫