・・・おもしろいのは、このローラーが全部木製で、その要部となる二つの円筒が直径一センチメートル半ぐらいであったかと思うが、それが片方の端で互いにかみ合って反対に回るようにそこに螺旋溝が深く掘り込まれていた。昔の木工がよくもこうした螺旋を切ったもの・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・これに反して木製の柄で割り竹を無理にしめつけたのは、なんとなく手ごたえが片意地で、柄の付け根で首がちぎれやすい。 そんな理屈はどうでもよいとして、こうまでも「流行」という、えたいの知れぬ人工的非科学的な因子が、送風器械としては本来科学的・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・西の方の獅子宮には白く大きな木星が屋根越しに氷のような光を投げていた。 星座図にある「変光星」というのは何かという疑問も出た、私は簡単な説明をしてやってちょうど見えていた「織女」のすぐ隣のベータ・ライラの面白い光度の変化を注意させた。そ・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・宅の洗面台はきわめて粗末な普通のいわゆる流しになっていて、木製の箱の上に亜鉛板を張ったものであるが、それが凹凸があって下の板としっくり密着していないために、洗面鉢の水が動揺するにつれて鉢自身がやはり少しの傾斜振動をする。しかるに鉢の底面から・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・あの松の下に蘭があって、その横にサフランがあって、その後ろに石があって、その横に白丁があって、すこし置いて椿があって、その横に大きな木犀があって、その横に祠があって、祠の後ろにゴサン竹という竹があって、その竹はいつもおばアさんの杖になるので・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・その白い岩になった処の入口に、〔プリオシン海岸〕という、瀬戸物のつるつるした標札が立って、向うの渚には、ところどころ、細い鉄の欄干も植えられ、木製のきれいなベンチも置いてありました。「おや、変なものがあるよ。」カムパネルラが、不思議・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・悪いのには木精もまぜたんです。その密造なら二年もやっていたんです。」「じゃポラーノの広場で使ったのもそれか。」「そうですとも。いや何と云っても大将はずるいもんですよ。みんなにも弱味があるから、まあこのまま泣寝入でさあ。ただまああの工・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・深い洞察、愛のこもった分析、公平な作家的批判、その全幅を傾けて居り愉快です。木星社から出た本[自注15]が三版目になりこの秋か冬出ます。後書を発展的な見地に立って私が自身の名でかくつもりです。私はもうその位の経験は積ねていると信じて居ります・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして、いきなりその踊りの真中を目がけて踏み出そうとすると、今までは、なごやかに低唱していた樫の木精が、一どきに ギワーツク、ギワーツク、カットンロー、カットンローローワラーラー……と歌い出し、彼方の霧の底から、微かな ハッハッハッ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 全く、日本の秋に紅葉した山々は、細かく細かく小庭のように区切った田の上で、細かい木製道具をつかってすべてを二本の手の働きだけで稲の収穫をしつつある日本の農夫の姿は、ヨーロッパの眼にどんなにか異国的であろう! 米価惨落・生糸惨落・造・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
出典:青空文庫