・・・ どこを画こうかと撰んで見たが、森その物は無論画いたところで画としてはかえっておもしろくないから、何でも森を斜に取って西北の地平線から西へかけて低いところにもしゃもしゃと生えてる楢林あたりまでを写して見ることに決めた。 道は随分暑か・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・それからまっくらなとこでもしゃもしゃビスケットを喰べた。ずうっと向うで一列涛が鳴るばかり。「ははあ、どうだ、いよいよ宿がきまって腹もできると野宿もそんなに悪くない。さあ、もう一服やって寝よう。あしたはきっとうまく行く。その夢・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・一人が鳥打帽をぬいで、頭をもしゃもしゃかきながら、その日は曇った六月の空を仰ぎ、何かいって、三人はやがて面白そうに笑い出した。声は私のところまで聞えず、ただうれしそうに互に見会わして動いている若々しい顔や白い歯が音もなく手にとるように見える・・・ 宮本百合子 「坂」
・・・ 諦めていたはずの土地に対しても、また新しい執着――強い、もうあんなに単純には諦めきれない未練――を覚えるとともに、怨みとも憤とも区別のつかないようにもしゃもしゃした心持が蘇返って来て、禰宜様宮田をどのくらい苦しめているのか。 そう・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・向い側に、髪をもしゃもしゃにしたままのマリーナ・イワーノヴナが茶色のスウェタアに包まれ、頬杖をついてダーリヤの指先の動きを眺めていた。彼女の前に、白と桃色の毛糸で編みかけの嬰児帽が放り出してある。彼女がこの二階に来てから五日経った。ダーリヤ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ おかっぱの金色の髪がもしゃもしゃになって汗を掻いた額にくっついている。自分は困って、「安心してらっしゃいよ。ね。ここにいれば大丈夫なんだから……気を落付けなさい」 医師は脈を見た。「あなたは初産だから、ほかの人より時間がか・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
出典:青空文庫