・・・しかし、その時いた八尾の田舎まで迎えに来てくれたのは、父でなく、三味線引きのおきみ婆さんだった。 高津神社の裏門をくぐると、すぐ梅ノ木橋という橋があります。といっても子供の足で二足か三足、大阪で一番短いというその橋を渡って、すぐ掛りの小・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・「その長さ谿八谷峡八尾をわたりて」は、そのままにして解釈はいらない。「その腹をみれば、ことごとに常に血爛れたりとまおす」は、やはり側面の裂罅からうかがわれる内部の灼熱状態を示唆的にそう言ったものと考えられなくはない。「八つの門」のそれぞれに・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・ きのう、霜どけのぬかるみを歩いてその通りをゆくと、ちょうど八百やが露店を出していた。人参、葱、大根が並んでいる。鉢巻した売りてが、大きい一本の大根をぶら下げて、あっちからこっちへと積みかえながら、「さア、この大根だと、一本十六円」・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
出典:青空文庫