・・・「やっぱし、まっさきに露助を突っからかしただけあるよ。」 うしろの方で誰れかが囁いた。栗本は自分が銃剣でロシア人を突きさしたことを軽蔑していると、感じた。「人を殺すんがなに珍しいんだ! 俺等は、二年間×××の方法を教えこまれて、・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・「みんなが一人も残らず負傷して内地へ帰ったらどうだ。あとの将校と下士だけじゃ、いくさは出来んぞ。」 声が室外へ漏れんように小さく囁き合った。「やっぱし、怪我をして内地へ帰るんが一番気が利いてら。」「こん中にゃ、だいぶわざと負・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・坪五円にゃ、安いとて売れるせに、やっぱし、二束三文で、買えるだけ買うといて、うまいことをやった。やっぱし買えるだけ買うといてよかった。今度は、だいぶ儲かるぞ。」九 青い大麦や、小麦や、裸麦が、村一面にすく/\とのびていた。帰・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・「いくら少ないとてケージは、やっぱし一ツ分占領するんだぞ。」 ほかの者は、互いに顔を見合っていた。市三は、さきの鉱車よりも、もっと這入り方が少ない今度のやつを役員の眼前にさらすのは、罪をあばかれるように辛かった。鉱車ごと、あとへ引っかえ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・「とうさんなら、あのほうを取るね。やっぱし田舎のほうにいて、さびしい思いをしながらかいた画は違うね。」「そうばかりでもない。」「でも、あの画には、なんとなく迫って来るものがあるよ。」 私たちが次郎を郷里のほうへ送り出したのは、過・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・十年もむかしのことですが、この部屋へ来てみると、やっぱし昔のことが、いちいちはっきり思い出されます。」静かに立って、おもて通りに面した、明るい障子を細くあけてみて、「ああ、むかい側もおんなじだ。久留島さんだ。そのおとなりが、糸屋さん。そ・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・この間も道であいつが小便をたれているところをうまくとっつかまえて連れて戻った。やっぱしもとの家というものは恋しいものかなあ。――何、僕の故家かね、君、軽蔑しては困るよ。僕はこれでも江戸っ子だよ。しかしだいぶ江戸っ子でも幅のきかない山の手だ、・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・「テーモ、やっぱし何だか聞いたような名だなあ。」「聞いたかも知れない。あちこち役所へ果物だの野菜だの納めているんだから。」「そうかねえ。とにかく地図はこれだよ。」 わたくしは戸口に買って置いた地図をひろげました。「ミーロ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
出典:青空文庫