・・・是等の元素の結合は如何に多数を極めたとしても、畢竟有限を脱することは出来ない。すると是等の元素から無限大の宇宙を造る為には、あらゆる結合を試みる外にも、その又あらゆる結合を無限に反覆して行かなければならぬ。して見れば我我の棲息する地球も、―・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ けれども有限なる人生において、事実は叢雲が待ちかまえているのは避けられないことを知る以上、対人関係はつつましく運命を畏む心で行なわれねばならないのであって、かりそめな軽忽な態度であってはならない。人生の遭逢は幸福であるとともに一つの危・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・人間の智慧という奴が無限だか有限だかも人間の智慧では分らないから可笑いのだよ。人間の智慧が無限ならば事物を解釈し悉せるように思うだろうがこれもあやしいのサ。気の毒だけれども誰も人智の有限と無限とを智慧の上から推して断定のできるものはまず無さ・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・人間に分らないくらい高尚幽玄の論だから気を静めて聞玉えよ。よしカネ、まず我輩が宇宙を貫ぬく大真理を発見した履歴を話そうよ。僕がネ幼少の時にフト感じた事があるのサ。実にネ、大発明というものはつまらない所から起るもので、僕の大真理は道から出たの・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・ 従って魔法を分類したならば、哲学くさい幽玄高遠なものから、手づまのような卑小浅陋なものまで、何程の種類と段階とがあるか知れない。 で、世界の魔法について語ったら、一月や二月で尽きるわけのものではない。例えば魔法の中で最も小さな一部・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・君たちには、まだまだ、この幽玄な、けもの、いや、魚類、いや、」ひどくあわてはじめた。顔をあからめ、髭をこすり、「これは、なんといったものかな? 水族、つまり、おっとせいの類だね、おっとせい、――」全然、だめになった。 先生には、それがひ・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・ いわんや今回のごとき大地震の震源はおそらく時と空間のある有限な範囲に不規則に分布された「震源群」であるかもしれない。そう思わせるだけの根拠は相当にある。そうだとすると、震源の位地を一小区域に限定する事はおそらく絶望でありまた無意味であ・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・これは要するに適当に選ばれたる有限の独立変数にてある程度までいわゆる原因を代表し、いわゆる方則によりて結果の一部を予報し得るに依る。これにはいわゆる原因と称するものの概念の抽象選択の仕方が問題となる。これは結局経験によって定まるものにして、・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・限られているのならば幸いであるが、こういうのを見るたびに、われわれ読者は、同じような歪曲が政治外交経済あらゆる方面の記事にも多少ちがった程度で現われているであろうと想像しないわけには行かないのである。有限な型の中のどれかにすべてのものを押し・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 人間の自由意志と称するものは、有限少数な要素の決定的古典的な物理的機巧では説明される見込みのないものであるが、非常に多数な要素から成り立つ統計的偶然的体系によって説明される可能性はあるであろう。そういう説明が可能となった暁には、この宇・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
出典:青空文庫