・・・一株の萩を、五、六羽で、ゆさゆさ揺って、盛の時は花もこぼさず、嘴で銜えたり、尾で跳ねたり、横顔で覗いたり、かくして、裏おもて、虫を漁りつつ、滑稽けてはずんで、ストンと落ちるかとすると、羽をひらひらと宙へ踊って、小枝の尖へひょいと乗る。 ・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・とぶるぶるゆさゆさと行るのに、「御免なさい。」と言ってみたり。石垣の草蒸に、棄ててある瓜の皮が、化けて脚が生えて、むくむくと動出しそうなのに、「あれ。」と飛退いたり。取留めのないすさびも、この女の人気なれば、話せば逸話に伝えられよう。 ・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・稲穂がゆさゆさと一斉に揺れたと思うと、女の顔がぼっと出て、髪を黒く、唇を紅く、「おほほほほほほほ、あはははははは。」「白痴奴、汝!」 ねつい、怒った声が響くと同時に、ハッとして、旧の路へ遁げ出した女の背に、つかみかかる男の手が、・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・出て来い、出て来い、顔を出せ、と永いこと縁側に立ちつくし、畑を見まわしてみるのだが、畑には、芋の葉が秋風に吹かれて一斉にゆさゆさ頭を振って騒いでいるだけで、時々、おおやの爺さんが、ゆったり両手をうしろに組んで、畑を見廻って歩いている。 ・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・樹はゆさゆさとゆすれ大へんにむしあつくどうやら雨が降って来そうなのでした。「ああこれは降って来る。もうどんなに急いでもぬれないというわけにはいかない。からだの加減の悪いものは誰々だ。ひとりもないか。畑のものや木には大へんいいけれどもまさ・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・そこへ来かかったのは、太った体にガウンをゆさゆさと着、胸に白ネクタイを下げた学生監並にシルクハットにフロック、コオトのブルドック二人である。漫画の題はTRAPPED、大学スケッチ第八。 書簡註。夜の歩道。一人の学生が巡・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・襞のどっさりついた短い少女服のスカートをゆさゆささせながら、長い編上げ靴でぴっちりしめた細い脚で廊下から運動場へ出て来る細面の上には、先生の腹のなかも見とおしているような目があった。 女学校へ入ってからも、弟がその学校にいたので、私は毎・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・九時頃から例によって二階と階下とに別れ、一区切り仕事をし、やや疲れを感じたので、ぼんやり窓から外の風景を眺めていると、いきなり家中が、ゆさゆさと大きく一二度揺れた。おや地震か、と思う間もなく、震動は急に力を増し、地面の下から衝きあげてはぐい・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫