-
・・・な、こんな思をするんだもの、よくせきな事だと断念めて、きれると承知をしてくんな。……お前に、そんなに拗ねられては、俺は活きてる空はない。お蔦 ですから、死ねとおっしゃいよ。切れろ、別れろ、と云うから可厭なの。死ねなら、あい、と云いますわ・・・
泉鏡花
「湯島の境内」
-
・・・そこがこの作の理想のあるところで、そこがこの作の不愉快なところであります。よくせきの場合だから細君が虚栄心を折って、田舎育ちの山出し女とまで成り下がって、何年の間か苦心の末、身に釣り合わぬ借金を奇麗に返したのは立派な心がけで立派な行動である・・・
夏目漱石
「文芸の哲学的基礎」