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・・・壁には四幅の金花箋を貼って、その上に詩が題してある。詩体はどうも蘇東坡の四時の詞に傚ったものらしい。書は確かに趙松雪を学んだと思う筆法である。その詩も一々覚えているが、今は披露する必要もあるまい。それより君に聞いて貰いたいのは、そう云う月明・・・
芥川竜之介
「奇遇」
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・・・ 次が与野、大宮です。――大きい停車場だからすぐわかりますよ」「どうも有難うございます。何にしろ始めて此方へ来るもんですから勝手が分らなくって――白岡って処へ参るんですが……」 浦和を出たばかりに、婆さんは、「もう大宮でござんし・・・
宮本百合子
「一隅」