・・・冷かし数の子の数には漏れず、格子から降るという長い煙草に縁のある、煙草の脂留、新発明螺旋仕懸ニッケル製の、巻莨の吸口を売る、気軽な人物。 自から称して技師と云う。 で、衆を立たせて、使用法を弁ずる時は、こんな軽々しい態度のものではな・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・最一つ二葉亭は洞察が余り鋭ど過ぎた、というよりも総てのものを畸形的立体式に、あるいは彎曲的螺旋式に見なければ気が済まない詩人哲学者通有の痼癖があった。尤もこういう痼癖がしばしば大きな詩や哲学を作り出すのであるが、二葉亭もまたこの通有癖に累い・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・裸の電燈が細長い螺旋棒をきりきり眼の中へ刺し込んでくる往来に立って、また近所にある鎰屋の二階の硝子窓をすかして眺めたこの果物店の眺めほど、その時どきの私を興がらせたものは寺町の中でも稀だった。 その日私はいつになくその店で買物をした。と・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・鉄砲の玉も螺旋して飛ぶのサ。筒の中に螺線条をこの頃施こすのもこの規則に従うのサ。鳶の尾は螺線を空中に描いて飛ぶのサ。魚の尾も螺線をなすのサ。鶴が高く登るのにも空中を輪になッてぐるぐると翔りながら飛ぶのサ。是非ねじれて進むのサ、真直に進むもの・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・スクリュウに捲き上げられ沸騰し飛散する騒騒の迸沫は、海水の黒の中で、鷲のように鮮やかに感ぜられ、ひろい澪は、大きい螺旋がはじけたように、幾重にも細かい柔軟の波線をひろげている。日本海は墨絵だ、と愚にもつかぬ断案を下して、私は、やや得意になっ・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・腕が螺旋のように相手の肉体へきりきり食いいるというわけであった。 つぎの一年は家の裏手にあたる国分寺跡の松林の中で修行をした。人の形をした五尺四五寸の高さの枯れた根株を殴るのであった。次郎兵衛はおのれのからだをすみからすみまで殴ってみて・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・おもしろいのは、このローラーが全部木製で、その要部となる二つの円筒が直径一センチメートル半ぐらいであったかと思うが、それが片方の端で互いにかみ合って反対に回るようにそこに螺旋溝が深く掘り込まれていた。昔の木工がよくもこうした螺旋を切ったもの・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・例えば、当時流行した紫色鉛筆の端に多分装飾のつもりで嵌められてあったニッケルの帽子のようなものを取外してそれをシャーレの水面に浮かべ、そうしてそれをスフェロメーターの螺旋の尖端で押し下げて行って沈没させ、その結果から曲りなりに表面張力を算出・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・それが、空の光の照明度がある限界値に達すると、多分細胞組織内の水圧の高くなるためであろう、螺旋状の縮みが伸びて、するすると一度にほごれ拡がるものと見える。それで烏瓜の花は、云わば一種の光度計のようなものである。人間が光度計を発明するよりもお・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・それが、空の光の照明度がある限界値に達すると、たぶん細胞組織内の水圧の高くなるためであろう。螺旋状の縮みが伸びて、するすると一度にほごれ広がるものと見える。それでからすうりの花は、言わば一種の光度計のようなものである。人間が光度計を発明する・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
出典:青空文庫