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・・・そのままの普段着で両親の家へ、急行に乗って、と彼は涙の中に決心していた。 梶井基次郎 「過古」
・・・「或日僕がその女の家へ行きますと、両親は不在で唯だ女中とその少女と妹の十二になるのと三人ぎりでした。すると少女は身体の具合が少し悪いと言って鬱いで、奥の間に独、つくねんと座っていましたが、低い声で唱歌をやっているのを僕は縁辺に腰をかけた・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 不思議なもので一度、良心の力を失なうと今度は反対に積極的に、不正なこと、思いがけぬ大罪を成るべく為し遂んと務めるものらしい。 自分はそっとこの革包を私宅の横に積である材木の間に、しかも巧に隠匿して、紙幣の一束を懐中して素知らぬ顔を・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・宗教的良心的命令も恋愛以上である。人類的正義と国家的義務も恋愛以上である。青年はこれらの恋愛を越えたる高所を持ちつつ、恋愛を追わねばならぬ。 さきに善への願いと恋愛の求めとをひとつに燃やしめよといったのもここに帰するのだ。恋以上のものの・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 日蓮はこの論旨を、いちいち諸経を引いて論証しつつ、清澄山の南面堂で、師僧、地頭、両親、法友ならびに大衆の面前で憶するところなく闡説し、「念仏無間。禅天魔。真言亡国。律国賊。既成の諸宗はことごとく堕地獄の因縁である」と宣言した。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・たとい満足な解決が与えられなくとも、解決の方法をつくし、その難点と及び限界とを良心的に示してくれるならば、われわれは深き感謝を持たねばならぬ。徹頭徹尾会心の書というものはあるものではない。 私の場合でいえば、リップスの倫理学も私には充全・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ 自動車に乗ると清三は両親にそう云った。しかし、彼等は、下に置くと盗まれるものゝように手離さなかった。「わたし持ちますわ。」嫁はそれを見て手を出した。「いゝえ、大事ござんせん。」おしかは殊更叮寧な言葉を使った。「おくたびれで・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・堪らなく痛かったが両親に云えば叱られるから、人前だけは跛も曳かずに痩我慢して痛さを耐えてひた隠しに隠して居ましたが、雑巾掛けのときになって前へ屈んで膝を突くのが痛くて痛くてほとほと閉口しました。然し終に其の為めに叱られるには至りませんでした・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・うなのが面白くなくも見えましょうが、それはそれとして置いて、馬琴の大手腕大精力と、それから強烈な自己の道義心と混淆化合してしまった芸術上の意見、即ち勧善懲悪という事を主義にして数十年間を努力した芸術的良心の熱烈であった事は、どうしても人をし・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・まだ小さな時分に、両親は北村君を祖父母の手に託して置いて、東京に出た。北村君は十一の年までは小田原にいて、非常に厳格な祖父の教育の下に、成長した。祖母という人は、温順な人ではあったが、実の祖母では無くて、継祖母であった。北村君自身の言葉を借・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
出典:青空文庫