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・・・それだもんですから、イソダンであなたの御交際なさることの出来ましたのは、御両親を存じていたわたくしだけでございましたわ。 大切なる友よ。あの時がわたくしにとっては、どんなに幸福な時でございましたでしょう。本当にお互に物馴れない、窮屈らし・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・この良心の基礎から響くような子供らしく意味深げな調を聞けば、今まで己の項を押屈めていた古臭い錯雑した智識の重荷が卸されてしまうような。そして遠い遠い所にまだ夢にも知らぬ不思議の生活があって、限無き意味を持っている形式に現われているのが、鐘の・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・(兵卒悄然(兵卒らこの時漸く饑餓を回復し良心の苛責に勝兵卒三「おれたちは恐ろしいことをしてしまったなあ。」兵卒十「全く夢中でやってしまったなあ。」兵卒一「勲章と胃袋にゴム糸がついていたようだったなあ」兵卒九「・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・榊山氏の文章は虚無的な色調の上に攪乱された神経と、破れて鋭い良心の破片の閃きとで或る種の市街戦の行われている国際都市の或る立場の人々としての現実を反映している。けれども、これらの文章の大体は、私たちが夜中にも立ち出て見送った兵士たちの生活と・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・ トーマス・マン夫妻は、おりからスイスに講演旅行に出かけていてエリカとクラウスとは、もう一刻も安住すべきところでなくなったドイツを去る決心をなし、スイスの両親にそちらにとどまるようにと電報して、ただちにスイスのアローザへおもむいた。こう・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 傍にいた両親の交る交る話すのを聞けば、この大切な一人息子は、夏になってから毎日裏の池で泳いでいたということである。体中に掻きむしったような痍の絶えない男の子であるから、病原菌の浸入口はどこだか分からなかった。 花房は興味ある ca・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・秀麿が為めには、神話が歴史でないと云うことを言明することは、良心の命ずるところである。それを言明しても、果物が堅実な核を蔵しているように、神話の包んでいる人生の重要な物は、保護して行かれると思っている。彼を承認して置いて、此を維持して行くの・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・安次は両親と僅に残された家産を失くすると、間もなく軽蔑された身体を村から消した。最早やそれから九年も経った。が、今、また秋三は彼を見たのであった。「ほんに、お前安次やったのう。なんと汚い身体になったもんやないか。触ったら苔がめくれて来う・・・ 横光利一 「南北」
・・・そして今逆に先手を打って、安次を秋三から心良く寛大に引き取ってやったとしたならば、自分の富の権威を一倍敵に感ぜしめもし、彼の背徳を良心に責めしめもする良策になりはしないか、と考えついた時には、早や彼は家に帰って風呂の湯加減をみる為に、一寸手・・・ 横光利一 「南北」
・・・語の端々までも峻厳な芸術的良心が行きわたっている。はち切れるような力が語の下からのぞいている。短い描写が驚くべき豊富な人生を示唆する。 ところで自分はどうであろう。強調すべき点は気が済むまでも詳しく書こうとする。そのために空虚な語のはい・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫