・・・双方とも立派なものではあるが、比べて視ると、神彩霊威、もとより真物は世間に二ツとあるべきでないところを見わした。しかし杜九如も前言の手前、如何ともしようとはいわなかった。つまり模品だということを承知しただけに止まって、返しはしなかった。九如・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・神仙妖魅霊異の事も半信半疑ながらにむしろ信じられて居りました。で、八犬士でも為朝でもそれらを否定せぬ様子を現わして居ります。武術や膂力の尊崇された時代であります。で、八犬士や為朝は無論それら武徳の権化のようになって居ります。これらの点をなお・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・我邦では狐は何でもなかったが、それでも景戒の霊異記などには、もはや霊異のものとされていたことが跡づけられる。狐は稲荷の使わしめとなっているが、「使わしめ」というものはすべて初は「聯想」から生じた優美な感情の寓奇であって、鳩は八幡の「はた」か・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・』これを写しながら、給仕君におとぎばなし、紫式部、清少納言、日本霊異記とせがまれ、話しているうち、彼氏恐怖のあまり、歯をがつ、がつ、がつ、三度、音たてて鳴らしてふるえました。太宰さん。もう、ねましょう。にやにや薄笑いしていい加減の合槌をうつ・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫