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・・・の中で定めながら、なお四辺を見て行くと、百姓家の小汚い孤屋の背戸に椎の樹まじりに粟だか何だか三四本生えてる樹蔭に、黄色い四弁の花の咲いている、毛の生えた茎から、薄い軟らかげな裏の白い、桑のような形に裂れこみの大きい葉の出ているものがあった。・・・
幸田露伴
「野道」
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・・・一つの戸は内部に入れこになっている一つ以上の世帯を意味している。一等はずれの戸が少しあいてそこから蓄音機の音がした。そこを入り日本女は石油コンロか何かのガラス瓶、玉ネギなどののっかった窓枠に向っている戸を叩いた。 ハンガリアン・ラプソデ・・・
宮本百合子
「モスクワの辻馬車」