・・・例えば万葉時代には実地より出でたる恋歌の著しく多きに引きかえ『曙覧集』には恋歌は全くなくして、親を懐い子を悼み時を歎くの歌などがかえって多きがごとし。 曙覧の歌、四になる女の子を失いてきのふまで吾衣手にとりすがり父よ父よといひて・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・それを用いて恋歌を詠んで見よかと思うたばかりで出来ぬ。一時間ばかりここに居たがいよいよ寒けがしてたまらぬから帰る事にして、車夫に負われて車に乗った。 土産に張子細工を一つほしいというたので秀真は四、五本抜いて持って来てくれた。一本選り取・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・智能と資本とを縦横に駆使して、イギリスの良品高価に対する良品廉価生産・高賃銀低コストを目ざす科学主義工業という呼び名が、これらの人々によって、資本主義工業の弱点を補強したものとして提唱されつつあるのである。 大河内氏の著書は、鶏小舎を改・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・国立出版所は、五カペイキや二十カペイキの廉価版を作って、それ等を売り出した。『集団農場・暁』十五カペイキ。集団農場・暁が、つい附近の富農の多い村と対抗しつつどんな困難のうちに組織されたか、どんな人間が、どんなやり方で――うすのろの羊飼ワ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・国立出版所はロシア及びヨーロッパ各国文学古典の価値あるものから現代の作品までを廉価版にして出した。詩の朗読会、作品朗読会はモスクワなどでは一週間に一度ぐらいずつの割合できっとどこかのクラブで催されている。 職場の壁新聞・工場新聞は、三十・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・学校の中に、学生や先生のために、便利で健康的な食堂が出来ていて、廉価に滋養のあるランチが得られます。食後、暫く構内の散歩をし、誘い合って帰宅する時間まで、三時間なり四時間なり又研究を続けると云う訳なのです。 両人に仕事のある日、夕飯は、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・そして、家賃として余り珍しい廉価が記入されていたので、そこを参観した経済専門のある婦人が、東京にこんな家賃の家が実際にありましたろうかと質問したらば、それはあることは在ったのだそうだ。池袋かどこかの隅にたった一軒そういう家があった。それで雀・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫