・・・として、歴史の批判に堪え得なかったばかりでなく、当時の心ある批評家から軽蔑された。第三章 日清戦争に関連して ―独歩の「愛弟通信」と蘆花の「不如帰」 国木田独歩の「愛弟通信」は、さきにもちょっと・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・明治年代の文学を回顧すると民友社というものは、大きな貢献をした事は事実であるし、蘆花、独歩、湖処子の諸君の仕事も、民友社という事からは離しては考えられない。遠くから望むと一群の林のような観をなしていたが、民友社にも種々異った意見を持った人が・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・その人の脳裡に在るのは、夏目漱石、森鴎外、尾崎紅葉、徳富蘆花、それから、先日文化勲章をもらった幸田露伴。それら文豪以外のひとは問題でないのである。それは、しかし、当然なことなのである。文豪以外は、問題にせぬというその人の態度は、全く正しいの・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・またある虫ではこれに似たもので濾過器の役目をすることもあるらしい。 もしかわれわれ人間の胃の中にもこんな歯があってくれたら、消化不良になる心配が減るかとも思われるが、造化はそんなぜいたくを許してくれない。そんな無稽な夢を描かなくても、科・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・その詩は父の遺稿に、蘆花如雪雁声寒 〔蘆花は雪の如く 雁の声は寒し把酒南楼夜欲残 南楼に酒を把り 夜残らんと欲す四口一家固是客 四口の一家は固より是れ客なり天涯倶見月団欒 天涯に倶に見る月も団欒す〕・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・ 同時に多くのイズムは、零砕の類例が、比較的緻密な頭脳に濾過されて凝結した時に取る一種の形である。形といわんよりはむしろ輪廓である。中味のないものである。中味を棄てて輪廓だけを畳み込むのは、天保銭を脊負う代りに紙幣を懐にすると同じく小さ・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・忽ち一艘の小舟が前岸の蘆花の間より現れて来た。すると宋江が潯陽江を渡る一段を思い出した。これは去年病中に『水滸伝』を読んだ時に、望見前面、満目蘆花、一派大江、滔々滾々、正来潯陽江辺、只聴得背後喊叫、火把乱明、吹風胡哨将来、という景色が面白い・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・大臣の名は知らない人でも、蘆花や漱石の名を知っていたわけはここにあった。 この四五年の急に動く世相は、大多数の人々の日常生活を脅かして、経済的な不安とともに文化的な面で貧しくさせて来ている。そのことは純文学の単行本の売れゆきのわるさ・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・徳富蘆花。そして、これらの悲劇は、当時のヨーロッパでさえも結核という病気については、ごくぼんやりした知識しかもたれていなかったことを語っている。肺結核にかかった主人公、女主人公たちは、こんにちの闘病者たちには信じられない非科学性で病気そのも・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・聖ロカの医者にはそういう致命的な問題がちっ共みえていなかったのです。私の命と一緒にもう二つ拾ったので、それというのもまず私が死んだからで相当感謝されています。私は今、回復期のきわめて滑稽な状態で、自分の疲れ方が見当がつかないところがあって、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫