・・・するとその子もわあと泣いてしまいました。おかしいとおもってみんながあたりを見ると、教室の中にあの赤毛のおかしな子がすまして、しゃんとすわっているのが目につきました。 みんなはしんとなってしまいました。だんだんみんな女の子たちも集まって来・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・すると耳に手をあてて、わああと云いながら片足でぴょんぴょん跳んでいた小さな子供らは、ジョバンニが面白くてかけるのだと思ってわあいと叫びました。まもなくジョバンニは黒い丘の方へ急ぎました。五、天気輪の柱 牧場のうしろはゆるい丘・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・学生たちはわあと叫んで、みんなばたばたノートをとじました。それからそのまま帰ってしまうものが大部分でしたが、五六十人は一列になって大博士の前をとおりながらノートを開いて見せるのでした。すると大博士はそれをちょっと見て、一言か二言質問をして、・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」 ずうっと向うで、河がきらりと光りました。「落せっ。」「わあ。」と下で声がしますので見ると小猿共がもうちりぢりに四方に別れて林のへりにならんで草原をかこみ、楢夫の地べたに落ちて来るのを見ようと・・・ 宮沢賢治 「さるのこしかけ」
・・・ゴーシュがその孔のあいたセロをもってじつに困ってしまって舞台へ出るとみんなはそら見ろというように一そうひどく手を叩きました。わあと叫んだものもあるようでした。「どこまでひとをばかにするんだ。よし見ていろ。印度の虎狩をひいてやるから。」ゴ・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・と恭一がとめようとしたとき、客車の窓がぱっと明るくなって、一人の小さな子が手をあげて「あかるくなった、わあい。」と叫んで行きました。 でんしんばしらはしずかにうなり、シグナルはがたりとあがって、月はまたうろこ雲のなかにはいりました。・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・「わあ、出た出た。逃げろ。逃げろ」 もう大へんなさわぎです。みんな泥足でヘタヘタ座敷へ逃げ込みました。 平右衛門は手早くなげしから薙刀をおろし、さやを払い物凄い抜身をふり廻しましたので一人のお客さまはあぶなく赤いはなを切られよう・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・けれどもいかにも無邪気な子供らしい声が、呼んだり答えたり、勝手にひとり叫んだり、わあと笑ったり、その間には太い底力のある大人の声もまじって聞えて来たのです。いかにも何か面白そうなのです。たまらなくなって、私はそっちへ走りました。さるとりいば・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・人の魂に小さな声で囁きかけてゆくのでは駄目で、往来の真ン中で、わあッと大声をあげる式でないと、声が聴えないのです。そのかわり大きな声をたくさん出せればいいわけです。明治以来こんなことは、はじめてでしょう。こんなに作家が大声をあげれば、あぶく・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ああ云う破綻がさけようとしても避けられない運命的な災難であると仮定しても私が参るのは、それを素直に、わあっと泣いて仕舞えない自分の心だ。悲しさは涙という。よい。特に女性の脳細胞にはよい鎮経剤であるものを伴って来る。然し苦しさには、涙が道づれ・・・ 宮本百合子 「文字のある紙片」
出典:青空文庫