・・・でパチンとやるというような、児戯に類した空想も、思い切って行為に移さない限り、われわれのアンニュイのなかに、外観上の年齢を遙かにながく生き延びる。とっくに分別のできた大人が、今もなお熱心に――厚紙でサンドウィッチのように挾んだうえから一思い・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・ あの人にとぼけるという印象をあたえたのは、それは、私のアンニュイかも知れないが、しかし、その人のはりきり方には私のほうも、辟易せざるを得ないのである。 はりきって、ものをいうということは無神経の証拠であって、かつまた、人の神経をも・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・かかる全き放心の後に来る、もの凄じきアンニュイを君知るや否や。世渡りの秘訣 節度を保つこと。節度を保つこと。緑雨 保田君曰く、「このごろ緑雨を読んでいます。」緑雨かつて自らを正直正太夫と称せしことあり。保田君・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 五 幼い Ennui 夏休み中に一度は子供等を連れて近くの海岸へ日返りの旅をするのが近年の常例になっていた。その以前には一週間くらい泊りがけで出かける事にしていたが、そうするときっときまったように誰かが転地先で病・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
出典:青空文庫