・・・それはとにかく彼がミュンヘンの小学で受けたローマカトリックの教義と家庭におけるユダヤ教の教義との相対的な矛盾――因襲的な独断と独断の背馳が彼の幼い心にどのような反応を起させたか、これも本人に聞いてみたい問題である。 この時代の彼の外観に・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・土人の女がハイカラな洋装をしてカトリックの教会からゾロゾロ出て来るのに会った。 寺へ着くと子供が蓮の花を持って来て鼻の先につきつけるようにして買え買えとすすめる。貝多羅に彫った経をすすめる老人もある。ここの案内をした老年の土人は病気で熱・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ジョバンニのうしろには、いつから乗っていたのか、せいの高い、黒いかつぎをしたカトリック風の尼さんが、まん円な緑の瞳を、じっとまっすぐに落して、まだ何かことばか声かが、そっちから伝わって来るのを、虔んで聞いているというように見えました。旅人た・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ カトリック教のひどくきびしい寄宿学校に八つのときから六年間も入れられ、あまり器用に立ちまわれないこの生徒は、終りに衰弱で半分死にかけるような苦労をした。そこで家に引きとられ、通学で十七の年法律学校を卒業した。バルザックが、文筆生活をは・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・『カトリック』教の国には尼になる人ありといえど、ここ新教のザックセンにてはそれもえならず。そよや、かのロオマ教の寺にひとしく、礼知りてなさけ知らぬ宮のうちこそわが冢穴なれ。」「わが家もこの国にて聞ゆる族なるに、いま勢いある国務大臣ファブ・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・Il Santoあたりであらわしていた、カトリック教に同情した心持を寺院の側からの抑圧を受けて、いっそう保守的にあらわそうとして、死ぬる前に一の小説を書いた。しかしそれはカトリック主義のようになって、芸術上の品位は前の作より下がっている。な・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
出典:青空文庫