・・・ 一太は長いこと長いこと母親の手許を眺めていてから、そっと、「キャラメル二銭買っとくれよ、おっかちゃん」とねだった。「…………」「ね! 一度っきり、ね?」「駄目だよ」「なぜさ――おととい玉子あんだけ売ったんじゃな・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・「蟹工船」「太陽のない街」「三・一五」「鉄の話」「キャラメル工場から」「施療室にて」などが生れ、プロレタリア文学の理論は、当時国際的な革命的文学運動の課題となっていた唯物弁証法的創作方法の問題、世界観の問題、前衛の文学の問題などをとりあげた・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・それまでの婦人作家が概して有産的な環境の中から生れ出ているに対して、この時代の潮は勤労的な生活の中から婦人作家を誘い出して、窪川稲子の「キャラメル工場から」等はその代表的なものだと思う。 そのような文学の動きは、新しい社会的な素地から作・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・病人さんは子供ではないのだけれど、この頃のことだから甘えてキャラメルがほしいという注文を出した。 キャラメルが欲しいと、大きい子供まである姉さんにたのまれた妹は、これももう子持ちになっていて、キャラメル一つを、大きい注文うけた気でさがし・・・ 宮本百合子 「諸物転身の抄」
・・・などをよみあわせたとき、二十年前に「キャラメル工場から」を書き、プロレタリア文学の歴史に一定の業績をのこしているこの作家が、複雑な良心の波にゆすられながら、民主主義の婦人作家として自身に課している努力を理解することができる。 過去十二年・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・出たり入ったりにうめの顔飽きる程見てたって、キャラメル一つ買って来るじゃないからね」 間をおき、更に云った。「第一、気心が知れやしない」 志津は、「ほーら、そろそろおばあさんの第一が始まった」と笑った。「本当だよ、嘘だと・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫