・・・ドン、ドン……段々近づいて来るのをきくと、それはキリスト教の伝道であった。益々早く太鼓をうち、何とかして、 信ずるものは誰れェも みィな救ゥくわるゥ 急に止って歌をやめ、「みなさァん」 声のわれた、卑俗な調子で短い演・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・明智光秀の三女であったおたまの方はキリスト教を信仰してガラシアという洗礼名をもっていた。石田三成が大阪城によって、徳川家康に反抗しようとしたとき、徳川の側に立っていた細川忠興の妻であり、秀吉によって実家の一族を滅された光秀の娘であるガラシア・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 宣教師の娘であり、宣教師の妻であって、バックが、中国の民族的自立の必然を認め、中国の民衆の独自性を理解して中国にキリスト教と宣教師とは必要ないものであると公言していることは、実に一つの驚くべき人間的誠実である。彼女はこれらのものの性質・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・彼女が二十五歳で中国のキリスト教女学校に赴任して来たとき、一番若い、一番美しくてやさしいC女史は、どんなに崇拝の的になったろう。P牧師も、きっと彼女の良人になる人だろうと思われるほど、彼女を崇拝した。しかし三年たってP牧師が休暇帰国して来た・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・近代キリスト教は、その資本主義社会のモラルとして恋愛と結婚の純潔を主張した。家庭の純潔をもとめた。相手に対して貞潔であること――精神と肉体とが互の愛の調和のうちに統一されてあることを求めているのである。そして、貞潔であるということは、外部か・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・そして、市民一人一人の精神の内に在る神としてのキリスト教新教を組織した。そして権力のために犠牲にされることのない市民の個々の家庭の尊厳を主張しはじめた。同時に両性の清らかな愛による互いの選択と、その神の嘉し給う結合の形としての結婚を主張した・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・十六歳だったシャポワロフは、原始キリスト教の理想を実現して、貧富の相異が消せるかと思ったのであった。 ゴーリキイがカザンで、デレンコフの店の裏の小部屋に坐ってナロードニキの討論に耳を傾けている、その時、シャポワロフは遠くペテルブルグにあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ゴーリキイはベラゲヤをネロ時代キリスト教殉教者のように描いた。労働者ウラソフが公判廷で行う演説は、説教者くさいところもある。プロレタリア解放運動の問題を、この作品でゴーリキイは経済的・政治的基礎においてとりあげず、むしろ道徳や、美の問題と混・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・所謂キリスト教の精神によって、アメリカは従来サンガー夫人たちの所論を公然とは認めていなかった。ただ、必要な場合の医療的処置としてうけ入れていたのであったが、昨今は急に産児を制限する範囲のことは賢い親の義務の一つであるとして、カソリックの坊さ・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・それにはギリシア及びキリスト教文明の教養の乏しいことも原因となっているに相違ない。しかしなお他に動かし難い必然がありはしないか。 私は近ごろほど自分が日本人であることを痛切に意識したことはない。そしてすべて世界的になっている永遠の偉人が・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫