・・・私の机の上には、クロームの腕時計[自注24]に小さい金の留金のついたのが、イタリー風の彫刻をした時計掛にかかってのっている。この時計は不正確なような正確なような愛嬌のある奴です。この頃は大体正確でね。日に幾度か私に挨拶をされています。夏にな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・彼のクローム腕時計はクロノメータア・ミリカという名をもっているのであったが、ミリカとは何の意味か、夏になるとそれは一日三十分ほどおくれる時計であった。冬になると同じ位きまって進んだ。その時分は寒かったから、何時? ときくと、サア、俺の時計で・・・ 宮本百合子 「時計」
・・・ 父は腕時計をつかわず、プラチナの鎖つきの時計をもって歩いていたが、胴の方はクロームであった。最後に、箱根から慶応病院まで父の体について行った時計も恐らくはそれだったのではないかしら。この胴がクロームという時計については、忘られない話が・・・ 宮本百合子 「わが父」
出典:青空文庫